ご利用者さまの安全を第一に考える福祉用具活用
〜転倒リスクを防ぎ、安心できる介助を続けるために~
介護の現場で最も避けなければならないのは
ご利用者さまの転倒や落下といった事故です。骨折などにより入院が必要になると、
その後の生活が大きく制限され回復に長い時間がかかってしまうことあります。
こうした事故は、無理な移動介助や持ち上げによって発生することが少なくありません。
そこで重要になるのが、安全を第一にした福祉用具の活用です。

転倒事故のリスクと人力介助の限界
大きな体のご利用者さまの移動介助は、ご利用者さまが不安定な姿勢にさらされ、転倒や落下事故につながり、職員が腰痛やけがをする原因ともなります。
人の力に頼った介助は安心感があるように見えて、実際には事故リスクを高めてしまうのです。
福祉用具を導入する意味
福祉用具を導入する最大の意味は、ご利用者さまの安心と安全を守ることにあります。
福祉用具を使えば安定した姿勢で移動や入浴ができるため、転倒や滑落のリスクを大きく減らすことができます。
さらに、職員の身体的な負担を軽減する効果も大きいです。
事業所が従業員を守ることは、ご利用者さまの生活を守ることと同じくらい重要であり、職員が無理なく働き続けられる環境を整えることが、支援を安定して提供するための基盤となります。
床走行式や天井走行式、立ち上がりを補助するスタンディングリフトがあります。
床走行式は自由に動かせるため在宅でも使いやすく、
天井走行式はレールを使って安定した移動を実現します。
スタンディングリフトは利用者さまの自立を促しつつ安全に移動できます。
代表的な福祉用具の紹介
・床走行式リフト
床にキャスター(車輪)が付いていて、移動させながら利用者さまを持ち上げ・移動させることができる福祉用具です。
「床走行式リフト」「モバイルリフト」とも呼ばれ、天井にレールを設置する必要がないため、工事不要で導入できます。
・天井走行式リフト
天井走行式リフトは、天井にレールを取り付けて、そのレール上を本体が走行することでご利用者さまを乗せて・移動することが出来きます。
「天井リフト」「オーバーヘッドリフト」とも呼ばれ、床にキャスターが必要な走行式リフトと違い、天井に固定されているため 狭い空間でもスムーズに移動できる のが特徴です。
・スタンディングリフト
スタンディングリフトはご利用者さまの自立を促しつつ安全に移動できます。
・移動式シャワーチェア
移動式シャワーチェアは、車輪が付いた椅子型の福祉用具で、ご利用者さまが座ったたままの状態で浴室まで移動し、そのまま入浴介助が行えます。
従来のように抱きかかえて浴室に運ぶ必要がなくなるため、転倒リスクを大幅に減らすことができる のが大きな特徴です。
・スライディングボード・シート
スライディングボードやシートは、短距離の移乗に有効で、持ち上げずに「滑らせる」ことで安全に移動できます。
自宅でも使いやすいコンパクトな福祉用具です。
・昇降ベッド
昇降機能付きベッドは高さを変えられるため、ご利用者さまが立ち上がりやすく転倒を防ぎます。
介助者にとっても腰痛予防に直結し、安心して介助できる環境を提供します。
費用負担の現実
介護保険には「福祉用具貸与」という1割負担でレンタルできる仕組みがありますが、障害福祉サービスにはこの制度がなく、原則として福祉用具は購入し全額自己負担となります。
ただし、補装具費支給制度や日常生活用具給付制度などの自治体助成を活用すれば、一部費用を公費でまかなえる場合もあります。
導入前に申請や判定が必要であり、対象外の用具は自費になるため注意が必要です。
ご家族の理解を得るために
機械に対する不安や住宅環境への心配、費用面での負担感など、ご家族が導入にためらう理由はさまざまです。
しかし安全を守るためには福祉用具が欠かせないことを丁寧に説明し、
制度を活用して費用を軽減できること、環境に合った選択肢があることを伝えることが大切です。
事業所としての姿勢
事業所は、利用者さまの安全と従業員の健康を同時に守る責任があります。
無理な介助を繰り返せば職員が体を壊し、結果的に支援の継続が困難になります。
安全基準を定め、福祉用具を活用する方針を明確にすること、説明と記録を徹底すること、行政や相談支援専門員と連携して理解を広げることが必要です。
まとめ
利用者さまの転倒事故を防ぐことは最優先の課題です。
そのためには人力介助には限界があり、福祉用具の活用が不可欠です。
障害福祉サービスでは原則全額自己負担ですが、助成制度を活用すれば費用負担を軽減できる可能性があります。
ご家族の不安に寄り添いつつ、安全第一で導入を進めることが大切です。
そして事業所は、従業員を守ることも忘れてはなりません。
職員が健康であるからこそ、利用者さまに安定した支援を届けられるのです。
おわりに
介護は誰かが無理をして成り立つものではありません。
利用者さまの安全を守り、従業員が無理なく働き続けられるようにするためには、福祉用具の導入が必要不可欠です。
用具を活用することで「安心できる介助」「続けられる支援」が実現します。
事業所は利用者さまの生活を支えると同時に従業員を守る役割を担っています。
安全と安心を両立させた介護を共に考え、未来へとつなげていきましょう。
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針 平成25年6月」
では、以下のようにされています。
「満18歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う物の重量は、体重のおおむね 40% 以下となるように努めること。」
「女子労働者では、さらに男性の取り扱える重量の約60% とするように努めることつまり、体重60kgの男性であれば、24kg以下を目安にするのが望ましいとされています。